「薬害エイズ事件」は、官僚の個人責任
【2008/04/10】
<不作為>:
{法}行為の一種で、あえて積極的な行動をしないこと。失火を放置する、立ち退きをしないなどがその例。(広辞苑)
<不作為犯>:
一定の作意を行わないことによって実現される罪、不退去罪のように、最初から実行行為を不作為限定している場合と殺人罪のように、作意の形式で規定しているが不作為によって実現される場合(母親が乳児を殺す目的で授乳しないなど)とがある。(広辞苑)
キイワーズ:
<薬害エイズ事件>:
エイズウイルス(HIV)が混入した非加熱血液製剤を投与された血友病患者などがHIVに感染し、600人以上が死亡した。1996年に松村被告、安倍英・元帝京大副学長、旧ミドリ十字の歴代3社長が逮捕、起訴された。安倍元副学長は1審無罪となり、控訴中に死亡。元社長3人のうち2人は禁固1年6 月~1年2月の実刑が確定、1人は控訴中に死亡した。患者らが国と製薬会社に賠償を求めた訴訟は96年3月に和解が成立している。
「元厚生省課長、有罪確定へ」、
<薬害エイズ「行政の不作為」認定>、
薬害エイズ事件「業務上過失致死罪にとわれた厚生省(現厚生労働省)の元生物製剤課長・松村明仁被告(66)の上告審で、最高裁第2小法廷は、松村被告の上告を棄却する決定をした。吉田佑紀裁判長は「被告はエイズ対策の中心的な立場にあり、薬事行政上、必要且つ十分な対応を図る義務があった」と述べた。決定は3日付。松村被告を禁固1年、執行猶予2年とした。1,2審判決が確定する。(読売新聞、2008.3.5、1P)
<前略>
また、松村被告1985年5~6月に非加熱製剤を投与された帝京大病院の血友病患者と、86年4月に大阪府内の病院で同製剤を投与された肝臓病患者が死亡した2事件で起訴された。1,2審は、帝京大の事件で無罪、肝臓病患者の事件で有罪が確定した。(決定の要旨37面、関連記事38面) 「官僚個人の責任を問う」(同、p38.)
解説:
「行政の不作為」について始めて官僚の刑事責任を認めた最高裁決定は、国民の生命や安全ににかかわる行政担当者に重い責任を課した。
これまで行政の政策判断の誤りによって生じた被害については、民事上の国家賠償責任は生じても、個々の官僚の刑事責任まで問うのは難しいとされてきた。政策判断は、個人ではなく組織として決定されるという考え方があるためだ。最高裁は、国民の生命が脅かされる高度の危険が目の前にあり、国が明確な方針を示さなければその危険が現実のものになるような場合、政策決定の担当者が何の措置もとらず漫然と放置するのは許されないと判断した。
サリドマイド、スモンなど過去の教訓があったにもかかわらず、薬害エイズで同じ過ちを繰返し、その後の薬害肝炎でも血液製剤による感染を拡大させるなど、行政の不作為行為による薬害はあとを絶たない。それだけに官僚個人の負う責任を厳しくとらえた今回の判断の意義は大きい。
一方で薬害エイズ事件では、縦割り行政の弊害も指摘された。個々の官僚が責任の重さを自覚するだけでなく、組織として迅速な対応がとれるような仕組みを整えることも必要だろう。(足立大)
感想:
妊婦が服用すると胎児の奇形の原因となることが明らかになって、製造販売が禁止された「サリドマイド」が、最近、「多発性骨髄腫」の患者の症状を軽くするなどとして、「薬監証明」で、大量に国外から輸入されている。これは、メール販売として宣伝販売されているため、薬剤の品質や「残薬の廃棄」の対応に問題が残っている。重篤な副作用をおこさぬために、この判決は関係者の今後の対応に影響することは確かである。