老人と携帯。猫に小判。
【2008/02/10】
●天野祐吉は言う。
「ケータイの登録数が1億をこえたという。一億総ケータイ時代である。
が、みんながみんな、ケータイを使いこなしているとは言えない。私(天野)などは電話として使うだけで、その他のフクザツな機能にはほとんどお手上げだ。
かなしい話である。「CM天気図」---天野祐吉「取り扱い説明書の怪」(朝日新聞、2008.1.22.、P25)
●「それ、本当ですか?」
ニッポンの科学3、電車内の携帯、命への専門家否定、(朝日新聞2008.2.6.、4版p2.)
「優先席付近では携帯電話の電源をお切り下さい。それ以外の場所では、マナーモードに設定の上、通話は御遠慮下さい」。電車内ではこんなアナウンスが流れている。
関東では京王電鉄が00年度から始め、03年、大半の社が一斉に導入したとされる。北海道や関西でも聞いたから、全国的に広がっている。1両を電源オフ車にしている社もあるという。
心臓ペースメーカーや、一歩進んだ植え込み型除細動器(ICD)を装置した不整脈患者を、携帯電話の電波から守るのが目的だ。
車内でこれを毎日聞かされると、携帯電話は相当危険だと思えて来る。それを気にせず、優先席でも携帯画面を見ている若者もいるから、患者の不安も募りそうだ。
昨年6月に東京で開かれた「日本心臓ペースメーカー友の会」総会は、ある発言をきっかけに紛糾した。機関誌「カテイテル」9月号にやりとりが乗っている。
ある出席者が「外出のたびに『ケータイ包囲網』に身の危険を感じている」と新聞に投書したと言う。それを聞いた座長の医師が「これまで総会で何回もいっているように、携帯電話はペースメーカーに影響しません」と断言。認識のずれが浮かび上がった。
患者である日高進・副会長が説明した「本当のところ」はこうだ。
総務省は「携帯電話はペースメーカから22センチ離す」という指針を出している。友の会は公式に問い合わせられると指針通りと答えるが、実はそれが必要なのは古い機種だけ。総会のような内輪の場では「最近の機種は影響ない」と話している。現に、多くの患者は自ら携帯電話を使っているという。
ペースメーカーなどの医療機器を販売する日本メドトロニック社(東京)の豊島健・テクニカルフェローは、日本不整脈学会の電磁波の検討委員長などを勤め、総務省の指針のもとになる調査を担当してきた。
「22センチは、駅のホームの黄色いラインのようなもの」と豊島さん。ラインを少し出たからといって、即危険があるわけではないのだという。
概略はこうだ。携帯は電源を入れておくと、時々電波が出る。中継基地からの距離が関係し、基地の少ない田舎は電波が強く、都市部は弱い。断続電波のメールの方が会話よりも、電波の影響は大きい。
「22センチ」は。影響を受けやすい古い機種に最大の電波を当てる最悪の条件下で設定した。その影響も瞬間的に脈が乱れるだけで、離れれば元にもどる。さらに約10年前からの機種は電波吸収フイルターが付いている、全く影響がない。日本のような車内放送をしている国は聞いたことはない‥‥‥。
つまり、電車内で電源を切るまでの必要はないらしい。だが、各医療器メーカーが患者に渡す使用説明書には、「警告」として「22センチ」が記されている。警告とは脅しすぎではないか。
豊島さんによると、日常生活でペースメーカー類に影響が大きいのは、万引防止用の電子商品監視装置と、電磁調理器のIH炊飯器と言う。特に蓋を開けた時の電波が強い。(編集委員、田辺功)
●老人のイライラは、家にいても、電車の中でも起る。
「携帯電話」は大変複雑だ。老人にとっては、最近の機種は使いこなせない。その原因がここにもあった。