少子化対策も老人対策も無惨。
【2007/06/10】
「国はもう何年も前から、少子化対策を重要政策課題に掲げているが、政策立案者は、「生み・育てる」という全体の中で基本的に何をしなければならないかという幅広い視点に欠けている言わねばならないだろう。」(柳田邦男(作家)日本人の教養。第42回、「医師逮捕の結末、一罰百壊の無惨」、新潮 45.2007.5.p242)
「安心して産める条件が整えられるどころか、むしろ生む場所を無くすような医療行政を強引におし進めているからだ。」しかも、医療の危機は産婦人科だけの問題ではなく、医療の全般にわたって進行しているのだ。
山梨県南西部の過疎地で高齢化の高い身延町と早川町の二町共同でつくっている組合立飯富病院の院長・長田忠孝氏は、病院危機の実態と原因を、多岐にわたって調査・分析した結果をほう報告した。原因の中でとくに重視したのは、医師不足の理由と新たに実施された医療制度の問題点(長期療養病床の大幅削減・廃止とリハビリテーション入院機関の最大6か月打切りなど)の二点だ。(中略)日本は先進諸国の中で最低水準と言ってよいほど絶対数が足りないのだ。(人口千当りの医師数は、2.0)(中略)
●多田富雄氏の悲痛な訴え●
医療崩壊のもう一つの原因になっている長期療養病床の削減とリハビリテーション入院機関の上限設定も、影響は深刻だ。
慢性疾患の悪化や精神病などで、従来であれば長期入院していた患者が、三カ月で追い出される。それ以上入院を認めると保健適応外となり、病院の自己負担が増えて赤字の要因になるからだ。家に帰れというのだ。家族がいなければ、どこか他の病院か施設に移れという。
リハビリテーション入院も同じだ。脳卒中後のリハビリは、症状によって多岐にわたる。せっかく回復しかかってきても、日常生活復帰の可能性が出てきても、介護力のない家に帰ると、独りだけのリハビリは無理で、結局寝たきりになり、病状を悪化させる。それでも行政による線引きが強制されるから、病院は患者を六か月で追い出す。
多田氏の弁を記そう。(中略)
こうした問題をメディアを通じて最も鋭く訴えてのは免疫学者で東大名誉教授の多田富雄氏だ。多田氏は、2001年に脳硬塞で倒れた後、長期にわたリリハビリによって、嚥下障害、言語障害や身体機能麻痺などの後遺症を徐々に克服して、杖で五十メートルほど歩けるようになった。ところが、そのさなか前立腺がんの手術で入院し、リハビリを中断しているうちに、運動機能が低下して歩けなくなった。(略)
多田氏は「文藝春秋」06年7月号に「小泉医療改革の実態、リハビリ患者の見殺しは酷い」を書いている。さらに、同誌07年3月号で「鶴見和子さんを殺したのだれだ」を書いた。<私は三十年余り国立大学の医学部教授として、医学生の教育に携わってきた。専門の研究のほかに、学生には意思としてなすべきこと、やってはいけないことを教えてきたつもりだ。体の機能が落ちて苦しむ患者に。医療を拒んではならない、死に瀕しているものがあれば、助けるために最善の努力を惜しんではならない。これは医学に携わるものの最低必要な倫理である。(中略)それを国が否定しようとしている。黙って見過ごすわけにはいかない。見過ごせば「医の倫理」が踏みにじられることになりからだ。>
結論:
この問題の解決策としては、新しい事故調査機関に事故の諸要因解明とそれをベースにした安全勧告の任務をゆだねること、べつの第三者機関を設置して、医師側の保険料負担による損害保健制度と連動させて、医師の過失の有無にかかわらず、被害者側に相当額の補償金を支払う制度をつくることなど、かなり画期的な新しい制度をつくらなければならない。
後者については、政府与党がまず産科領域に限って新制度の検討をはじめているという。見守りたい。